【連載小説】死の灰被り姫 第6話

王 女 爆 殺

kaneshiro金城孝祐
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【連載小説】死の灰被り姫 第1話

【連載小説】死の灰被り姫 第1話

金城孝祐金城孝祐


 目の前で、王子とともに、血まみれではあるけど、とりあえず幸せそうに、王女となった姫を見ていると、不公平なものがあるな、という気分がどうしても沸き立つのだった。だってさ、彼女、なにもしてないじゃん。LSDでラリってるだけだったのに、ここまで苦労して連れてきてやって、引き合わせてさ。最後の最後でも王子の同情を買うための演説をぶってやったのも私なんだよ? それだけ苦労してさ、使い魔だからはいお疲れ、で済ますわけ?

 王子は均整のとれた顔立ちで、立ち振る舞いも気品があり、一時は悪のりで言葉は悪かったが、基本的には誠実そうだった。男として、悪くない。いや、その背景にある財産や権力を考えると、超一級の物件! 女の子は考えた。そうだ。今、私は人間の女の子なんだ。使い魔としての義務は果たした。これからのことは指示されてない。べつに、自由に動いてもいいじゃないか。私が、王子様を取っちゃ駄目な理由なんてないよね? そうだよね? べつに、灰かぶり姫にそこまでの義理はないんだ。ちゃんと王子に会わせたんだ。これからは、ライバルなんだ。正々堂々の戦いなんだ。だから、蹴落として叩きふせても、何の問題もないんだ。
 女の子はそっと姫に近づくと、耳打ちした。「ねえ、なんかいい感じになってるけどさ、五時五十分に魔法が解けるのを忘れないでね。ドレスも靴も、ぼろに戻るから」

 それを聞いて姫は青ざめた。瞳が空虚を泳ぎ、一気に土壇場にせっぱつまった感じになった。
 「ど、どうしよう!」姫は女の子の肩を掴んで聞いた。
 「どうにもならんわ、魔女に相談しないと。今どこに居るかなあ」時計を見ると、既に三時を回っていた。というか、城の公式パーティーでこんな時間までらんちきしてて大丈夫なのか。姫は青々としながら「魔女さんとどうすれば連絡取れますか!」と聞いた。
 女の子はしれっと「たぶん城の外に待機していると思うよ」と言った。それを聞いて姫はあわてて場外に飛び出ていったが、そこで地雷を踏んだのである。姫は両足を吹っ飛ばされ、空中に投げ飛ばされて堀に転げ落ち、ぷかぷか流れていった。女の子は内心爆笑していた。ざまあみやがれ。恋の駆け引きとはこういうことだ。お前が王子といちゃいちゃしていた数十分のうちに、私は衛兵にお菓子の家の抵当権を売りながら買収していたのだ。イナゴの襲来でただでさえ地雷を埋めていた衛兵は、私の指示通りに正門前に地雷を敷き詰めてくれたわい。

 ターゲットを無事始末したことで、衛兵たちは正門から地雷を撤去し始めていた。そこに王子が駆けつけた。
 「王女! おうじょーーーー!!」王子はさっきまでラブラブだった王女が、突然城を出て、しかも爆発音とともに行方不明になったとあって、気が気でない。そして、彼女が履いていたガラスの靴が転がっているのを、彼は見つけた。「まさか……」王子はそれを拾って愕然とする。
 「気に病まないで!」女の子は王子に抱きつく。そしてその豊満な胸を王子の顔に押し付ける。「不幸な事故なの……! 傷つかないで……! 一日に、色んなことが起きすぎたの……! 今日は休んで……! 私がいるから……」

 王子は、王女の安否も分からないという混乱した状況で、つい数十分前に辛辣な演説をぶちかました女の子が手のひらを返すように優しくしだしたので、頭がおかしくなりそうだった。ガラスの靴だけが、王子の手の中で、寒々と冷たかった。
 その日、王子はなしくずし的に、女の子と寝た。王子はとてもそういう心情ではなかったが、女の子は積極的だった。王子をいざない、受け入れ、激しく動いた。激しい嬌声、揺れる胸、柔らかい体、絡み付く濡れた肉体、それに男の体を持つ王子は抗えなかった。まるでサキュバスに生気を搾り取られるかのように、王子は女の子に翻弄された。まだ16の王子にとっては、それは幻惑的な体験としか言えなかった。

 そして翌日、王子はベッドで目を覚まし、呆然とした。隣に牛が寝ていたのだった。
 なぜこんな事になったんだ!? 意味が分からない!!
 王子は昨日の記憶を反芻し、何がどうなったかを整理しようとした。だが、何をどう考えても、隣に牛が寝ていることを合理的に理解する事はできなかった。こんな話、聞いてない。寒々とした気分が襲った。
 王子はパジャマを着て、そそくさと寝室を後にした。ダンパに使っていたホールは大勢の使用人によってすでに片付けられていた。王子は庭に出た。曇った空にすでに日は高く昇っており、鈍い光を放っていた。王子はベンチに座り、ポケットからメンソールのメビウスを取り出すと、火をつけて深々と吸った。
 「夕べはお楽しみでしたね」大臣が後ろに立っていた。
 「大臣……」王子の頼りない顔を見て、大臣は前に回り込んできて、隣に座った。
 「なぜ……王女でなく、あの女と?」大臣は言った。王子はたばこを取り落とし、頭を抱えてうずくまった。
 「なぜこんな事になったのか、僕の話を聞いてほしい……」彼は言った。
 「……そうですね」大臣は言った。「私は、王様の世話ばかり見ていて、王子様のことはまるで知りませんものね」
 「あの、王女と一緒にいた女性は……なんだかまともじゃない気がする。ぼくは女を知らなかったけれど……初めての体験だったけれど、あんな求めかたをするのは異常だと思った」大臣は話す王子の言葉に頷く。
 「もっともです。言いつけ通り、昨日の料理には催淫剤を入れましたので、おなごが興奮状態になったのでしょう」
 「だけれど、二時間で十七回もさせるとか、朝には牛になってるとか、そんなのはどう考えてもおかしい!!」
 「二時間で十七回!?」
 「そんな事はどうでもいい!!」王子は新しいメビウスを取り出して火をつけた。
 「吸い過ぎですよ。王様も健康を心配なさってます」大臣は言った。
 「王様なんて……」王子は気だるそうに煙をふく。「血のつながりなんて、あってないようなものさ。親子ごっこなんて馬鹿らしい」
 「……私の話を聞いてくれますか?」大臣は言った。王子は頷いた。

【連載小説】死の灰被り姫 第7話

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金城孝祐

小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。

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