【連載小説】死の灰被り姫 第4話
なんとか混乱に乗じてお城の舞踏会に紛れ込んだ牛、姫、フンデルとゲローデル。が、そこでの光景に戦慄する!
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城は、もう夜の十二時を回っているというのに、ライトアップされてテクノミュージックが外まで聞こえる大音量で流れていた。オイルスモークが野外まで炊かれ、レーザーライトが飛び交い、間接照明で煌煌と照らされている。
飢饉まで起きている村で生まれ育ったフンデルとゲローデルはすっかり魅了されてしまった。
「わたし、こんな素敵なヴィへイヴィアーはじめて!」ゲローデルはお城の正面玄関に向かって走りだした。それにつられて、フンデルも走った。王子様に会えると胸が高まっていた姫もついつい走り出した。最後まで監督せねば、と女の子も走り出した。そしてその後ろから、フンデル兄妹の村を飢饉に貶めたイナゴの大軍も押し寄せてきたのだった。
「王様! なぞの集団が、イナゴを率いてやってきました!」大臣が王様に進言する。
「まずい! 穀物庫が! 穀物庫がああああ!」王様と大臣はテンパったが、王子は貴婦人たちとハプニングバー状態だった。
「バカ息子め! 奴はもう駄目だ…この国は俺の代で滅亡だ! いっそ、花火のようにたけだけしい最期を!!」王様は松明を持って火薬庫に突進する。
「早まるな!」大臣は王様を殴り飛ばす。
「殴ったな! 土壇場のせっぱつまった状況とはいえ、理由も話さず王様を殴る、それは寒々しいことだと、お前なら分かるだろ!」王様は言った。
「いーや、分からないね!」大臣は言った。「わからないさ! ああ、分からないね! こんな状況で真っ青になって呆然となる、そんな王様を殴っていさめて、何が悪い! ……王様、私は先代から、この国を支えてきた大臣なんですよ。あなたの長所も短所も知ってます。一人でなんでも決めないでください。あなたのことは何でも知ってますから……………あなたが、女の子、ってこともね……」
「…………大臣……」王様は松明を取り落とし、大臣にしがみついてむせび泣いた。
そうして王様と大臣がペッティングを始めている一方、城壁では殺虫剤が大量に散布されていた。「虫は消毒!」兵は猛毒の殺虫剤をばらまく。虫など何億匹死んでもいい。虫など、価値のない命なのだ! 「こいつらを佃煮にして食う国があると聞いたことがあるが……信じられんね! なぜなら、こいつらは、虫だからだ! 虫など、食べ物として議論する価値はない! なぜなら、虫だからだ! 俺が虫だとしても、そう思うね! 虫だからごめんねって! それをこいつらはどうだ! ふてぶてしい! だから、殺していいんだ! だから殺すんだ!」
この混乱に乗じて、女の子と姫と、フンデルとゲローデルは、門番のパスなしに城に入ることができた。
中で繰り広げられていたことは、下層階級の彼女ら(と牧畜の女の子)には想像のつかない世界だった。いくつものテーブルに山盛りのフルーツ、山盛りの肉、山盛りの魚、山盛りのパン、山盛りのドネルケバブ、山盛りの北京ダック、山盛りの山芋、山盛りの灰皿、山盛りの大麻、山盛りのうんこ、山盛りのコンドーム…………いったい、ここでなにをしているのだ、こいつらは?
貴婦人たちはそれらを前にして、口に表すのもはばかられる怠惰な快楽に耽っていた。具体的には、フルーツを猛烈にむさぼり、肉を悶えながら体に塗りたくり、魚をいたずらに握りつぶし、パンを意味もなく撒き、ドネルケバブを切るトルコ人を遊び半分で誘惑し、北京ダックを皮しか食べず、山芋にかぶれ、灰皿をひっくり返し、大麻を吸い、うんこして、コンドームを捨てていた。
「なんなんだこいつらは!」女の子は思わず気持ちを叫んだ。これが、こんなものが、私が紆余曲折を経てまで、この姫を送り届けようとした目的地なのか!? こんな狂った世界に、原発のトラウマに病んだ哀れな娘を置き去りにし、それでよしとして、ほんとにいいのか!? そんな私の気持ちも知らず、フンデルとゲローデル兄妹は「わーすごーい」なんていって、肉や魚、フルーツをほおばっている。いや、それはいい……彼らに罪はない。奴らは子供だ。しかも今まで飢えて暮らしていたのだ。望み通り、一夜の夢を見させてやろう。だが、私と、姫は、そういうわけにはいかんのだ!
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この記事のライター
小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。