世界に生中継で手に汗握る!ショパンコンクール第十六回と第十七回の覇者
ショパンコンクール第十六回と第十七回は最終選まで手に汗握り、誰の手に一位の栄光が輝くのか予想がつかないほどの接戦でした。コンクールの歴史は1927年から80年を越えて、その演奏も時代と共に変わったのです。今回は第十六回と第十七回の覇者と入選者の演奏をご紹介します。
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コンクールの興奮が良い演奏に
出典:pixabay.com
コンクールという存在はどういうものなのでしょう。ショパンコンクールは第十七回で88年になります。これだけ続いたというのには理由が必要です。それは、おそらく誰もがいうように「コンクールの興奮が出演者と観客の双方に伝わりよい結果を生むから」ということなのでしょう。
長いコンクールの歴史の間には、「ショパンのコンチェルト第二番を選択すると1位にはなれない」などの様々な伝説が残ったり、時には「番狂わせの軌跡」が起こったり、「自分が1位でないことを不服として出て行くもの」があったり、「話題には事欠かない」のです。
若いピアニストたちは、最初の頃の大先輩たちの残した「歴史的録音と人生の軌跡」を頼りに、やはり人生を賭けてしのぎを削ります。わたしたちは、この先もショパンコンクールをずっと追い温かく応援していきたいと感じます。
第十六回 1位 マリアンナ・アヴデーエワ
第十六回は2010年に開催されました。1位に輝いたのはマリアンナ・アヴデーエワです。彼女は1985年ロシア生まれでモスクワで勉強したあとスイスに留学しています。いろいろなコンクールで受賞した後にショパンコンクールで1位という結果ですが、女性が1位になったのは45年前の1965年ににマルタ・アルゲリッチが受賞して以来の快挙です。
彼女は技巧的な曲も得意としており、コンクール後はリスト、シューベルト、プロコフィエフなどの録音もしています。演奏は、エレガントでゆっくりとしたテンポ、そしてしっかりと細かい部分まで表現しており、主旋律でない内声部に別の旋律を美しく浮き上がらせます。
また、コンクールに華美なドレスではなく「ダークスーツ」で挑む姿にはとても好感が持てます。彼女の音楽に対する真摯な姿勢を感じた人は多いのではないでしょうか。
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第十六回 3位 ダニール・トリフォノフ
トリフォノフは1991年ロシア生まれです。まだ17歳の時に国際コンクールを次々と受けていき、2010年に、ピアニストのコンクールでは最高峰と呼ばれるショパンコンクールの3位受賞となりました。さらに2011年にはルビンシュタインコンクールで1位になり、同年に練習する時間もほとんどない状態でチャイコフスキーコンクールも1位受賞という快挙は、トリフォノフの実力を世界に示しました。
彼は技巧的なピアニストのひとりでありますが、歳を重ねることで情緒的な表現を加えることで素晴らしいピアニストになる、と今後の活躍が期待されています。
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第十七回 1位 チョ・ソンジン
第十七回は2015年に開催されました。1位のソンジンは1994年韓国出身です。ショパンコンクールの前にはいろいろなコンクールの受賞歴があります。2011年のチャイコフスキーコンクールではショパンコンクール第十六回の覇者トリフォノフが1位でソンジンが3位を受賞しました。韓国人として初めての1位ですが、アジア人では、ベトナムのダン・タイソン、中国のユンディ・リに続いての快挙です。
最終まで2位の結果となったアムランが1位ではないかと囁かれていましたが、プレッシャーに負けず音の美しさをコントロールし、みごとでした。ソンジンの演奏は「過度の振り付けのないきれいな弾き方」と「音色の美しさ」、細部まで聴いて乱れがまったくなく素晴らしいことが特徴です。
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第十七回 2位 シャルル・リシャール・アムラン
アムランは1989年カナダ生まれです。カナダ出身にはヴィルトオーソ(名人)で世界的なピアニストの「マルク・アンドレ・アムラン」がいますが、親族かどうかはわかりません。28歳という落ち着いた年齢での2位受賞となりましたが、最終選まで1位ではないかと観客の中で噂が飛び交いました。それほど素晴らしい演奏で、彼の大きな風貌と演奏がひとつになり「何か包み込まれるような温かさ」を感じる人は多かったようです。
審査員でありポーランドを代表するピアニスト「クリスチャン・ツィメルマン」による「ベストソナタ賞」も受賞しています。アムランは個性を強烈に押し出すタイプではなく、「作曲家と楽譜に忠実であるピアニストである」ことをモットーとしているということで、演奏も純粋で温かくその人柄を表しているようなもので世界中にファンを増やしています。これからの活躍をじっくりと数十年追いかけたくなるようなピアニストです。
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フレデリック・ショパン国際コンクールは永遠に
ショパンコンクール第十六回と第十七回は安定したネット回線により、世界中のショパンファンが会場の様子を「実況中継の同時進行」で楽しむことができました。また、第十七回では実際に観客としてネット上で「投票」まで可能にし、ファン同士でチャットも楽しむという画期的ものでした。
誰が良い演奏をしたのか、誰が次のステージ(段階)からファイナル(最終選)に残れるのかといった会話をしたり、時差のある国の人への「おやすみなさい」のあいさつを交わしたり、といった温かい会話がコンクール中ずっと続いたのです。また、近年の演奏について「運動会のようにテンポを速くするのはなぜなのか」と古参のファンが嘆いていたり、意見と情報の交換も行われていて興味深いものでした。
1927年の第一回から実に「88年間という長い歳」の間に随分と様変わりしたショパンコンクールは、ハイテクの時代に生き残ってきました。ショパンの生誕から200年を越え、この先も延々と続いて行くことが世界の平和に繋がると信じて疑いません。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。