スクリャービンは未体験?「神秘コーティングのロマン派」をご紹介
ロシアの作曲家スクリャービンをまだ未体験なら、ぜひショパンのロマン派の音楽を神秘という音でコーティングしたかのような世界を覗いてみてください。後期ロマン派の流れを汲む「コサックのショパン」の音楽を5つご紹介します。
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スクリャービンと作品
出典:pixabay.com
スクリャービンは、1872年にロシアに生まれています。同期にはラフマニノフがいますが、二人は同じクラスで学んだ友人でありライバルでした。海外で「ロシアへの思慕」を感じさせる音楽を書いていたラフマニノフと違い、スクリャービンはロシア国内にいながらロシア風というよりは、西側諸国への憧れを示すかのように「神秘主義的」音楽を書いています。
神智学に懲り、実際に宗教的なものにハマり、あまりにも特異的な音楽は当時は熱狂的に受け入れられましたが、次第に忘れ去られていったようです。ところが、1970年代に「ロシア国内の文化を見直す」文芸復興運動が起こると、一躍西側へもその名が知られることになりました。その時紹介された曲のひとつは、エチュード 作品8の11であり、観衆は衝撃的感動的に迎えたようです。ただ、一部の人たちは彼の作品に対して「神秘主義」イコール「オカルト主義」のような偏見を持ち、すべての人が素直に受け入れたということではなかったのです。もちろんロシア国内では、スクリャービンの神秘主義はそれほど重視されることはなく、きちんと「ふるいにかけ」その音楽の純粋さのみに焦点を当てているのです。
彼の作品ですが、スクリャービンは最初の頃「コサックのショパン」という異名があったように、後期ロマン派を出発点としています。ですから、初期の作品はロマン派の甘い美しいメロディの曲を書いており、ショパンなどのロマン派を聴きなれた私たちの耳に馴染みやすいように思います。また、ラフマニノフを好む傾向は女性にあり、スクリャービンは男性が好む傾向があるといわれます。それには、スクリャービンが掲げた音楽の「法悦」「エクスタシー」に、性衝動のセクシャルな高揚を感じ取るからだと推測されます。
今回は、スクリャービンの後期ロマン派の作品と「神秘主義」を感じる作品をご紹介します。
1. エチュード 作品8の12
スクリャービンのピアノ曲では一番人気があるといわれる曲がこの「エチュード Op.8 no.12」です。エチュードというのは一般的に「練習曲」と邦訳されますが、「技巧の粋を凝らした曲」のような意味合いを持ちます。20代の初期の傑作であり、まだロマン派の音を聴くことができるでしょう。熱い恋愛感情のような激しさは、ショパンのように他者に語りかけるものではなく利己的で官能的な魅力を感じるのではないでしょうか。特に、この12番は冒頭から激しい旋律に圧倒されていきます。おそらくショパンの「革命のエチュード」を意識したものと思われます。ピアニストには人気があり演奏効果も高い曲ですが、左手の動きが大きいことから手の小さい女性には困難が伴う曲です。「ロマン派最後の生き残り」といわれた「ホロヴィッツ」の演奏は特に有名です。
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2. エチュード 作品2の1
スクリャービンの代表作の一つといわれるこの曲は、何と14歳の頃の作品です。憂いのある、しみじみと語りかける音はすでに「スクリャービンの音楽」を完成させており、天才を感じさせる傑作といえます。技巧的にもスクリャービンにしては難易度は低く、人気があります。まだ若者であったホロヴィッツは亡命ロシア人であり、スクリャービンにピアノの演奏を聴いてもらったことがあるのです。ピアノのヴィルトゥオーゾ(名人)、ホロヴィッツは優れたピアニストであり、スクリャービン演奏の第一人者でした。
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3. エチュード 作品42の5
スクリャービンの中期の作品です。先にご紹介しました作品8の12同様の激しい感情と悲劇的な雰囲気がする曲ですが、こちらもピアニストに人気があります。鍵盤を駆け巡る速い動きと重なる音の多い中、メロディラインを右手高音部ではっきりと浮き立たせることの難しさから、技術的に大変です。ただ、その美しさは例えようもありません。やはり、ショパンの革命のエチュードを連想する曲ではないでしょうか。おそらく、ショパンがポーランドの国を思い「革命」を書いたことと同様にスクリャービンの心情に「ロシア革命」への憤りがあるのではないかと感じます。
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4. ソナタ 第4番
スクリャービンは、ソナタを10曲書いています。この4番は作品30で中期の作品です。作風は、まだロマン派を感じさせますが、すでに「調性離脱」の神秘主義の和声の兆候があり、次のソナタへと進化していくのです。幻想的、怪奇的な雰囲気のする作品で、スクリャービンらしい躍動感とだんだんと美しい主題が再現され、強まる恍惚と燃え立つようなエンディングに圧倒されます。
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5. ソナタ 第9番 黒ミサ
スクリャービン後期の神秘主義の色濃いソナタです。スクリャービンのソナタには「白ミサ」があり、対となっていますが、生前、スクリャービンは白ミサを「不気味な作品」といって自分では演奏しなかったと伝えられています。この黒ミサは、演奏される機会の多い人気の作品です。スクリャービンは、神智学に凝っており高揚する法悦を表現する目的でこれらの曲を書いたとされますが、セクシャルであり呪術的なイメージが強く印象的です。
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スクリャービンはとっつきにくい作曲家?
いかがでしたでしょうか。スクリャービンと聞いて、奇妙な宗教団体やオカルト主義を連想して敬遠する人はさすがにこの時代には少なくなったと思います。彼の音楽は「まったく理解不能」とまではいわないまでも、とっつきにくいとお考えなら、それは「食わず嫌い」というものかもしれません。初期の作品は、情熱的な恋の物語を謳っています。それは若者の初恋の物語を聞くのと同じなのです。徐々に気難しい大人になったとしても、根っ子の部分はやっぱりロマン派を感じないでしょうか。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。