ルネサンス絵画の頂点を極めた薄命の天才ラファエロの描く名作を辿ろう
優しい聖母子像の絵画で知られるラファエロ。彼が活躍したのは16世紀前半のイタリアです。わずか37歳で亡くなりますが、その後の西洋絵画に及ぼした影響は計り知れません。そんな彼の代表作を辿ってみましょう。
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構図と色使いを使いこなした絵画作品の数々
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと並びルネサンスの三大巨匠の一人として数えられるラファエロ。彼が描く人物たちはどれもが優しい表情で見る者の心を和ませてくれます。それは彼の緻密な計算による構図と色使いの賜物。様々な新しい技法が生み出されたルネサンス発祥から約100年の時を経て、ラファエロはすべてのテクニックを応用して独自の優しい人物像を生み出しました。数多く存在する彼の名作をピックアップしてみてみましょう。
ラファエロの代名詞とも言える聖母子像「美しき女庭師」
名作を数多く誇るルーブル美術館。その中でも柔らかい色使いと優しい雰囲気で人々を魅了するのがこの作品です。描かれるのは幼きイエス・キリストとそれを見守る聖母マリア、そして後にイエスに洗礼を施す洗礼者ヨハネの子供の姿です。愛情深く我が子に接するマリアには神の母である神聖さと人間の母としての愛情の両方を感じることができます。この絵の特徴はマリアの頭と右の岩、そして左のイエスの足元で正三角形を作っていること。穏やかな背景とともに計算され尽くしたラファエロの美学を見ることができます。
足元の天使に心和む「サン・シストの聖母」
ドイツの古都ドレスデンが誇るラファエロの名作がこちらの作品。大きな絵画を目の前にすると中央のイエスとマリアに目が行きますが、足元を見ると可愛らしい天使が2人います。この天使たちだけを取り上げたポストカードも存在するほどの人気ぶり。それまでの天使は神の使いとして描かれましたが、この天使たちはまるで遊びに疲れた小さな子供のよう。ラファエロの人気の秘訣は人間の表情を持ちつつも神聖さを描くところにあります。
ワイン樽の上に描いたと言われる伝説の一枚「小椅子の聖母」
キリスト教絵画で人気の聖母子像。その中でもラファエロの作品は本当の親子の情が通うような優しさで人気です。この「小椅子の聖母」は丸い板の上に描かれています。伝説では、ラファエロが旅の途中に出会った若い母親と子供の姿に感動してワイン樽の蓋に描いたと言われています。しかし実はローマ教皇からの依頼で描かれた由緒正しき作品。マリアが座るのは教皇にのみ許された椅子。イエスをしっかり抱くマリアからは誇らしさを感じます。
ラファエロがもっとも愛した恋人の姿を描いた「フォルナリーナ」
女性に大変もてたとされるラファエロ。そんな彼がもっとも愛した女性がフォルナリーナと呼ばれるパン屋の娘です。彼女の姿を描いたとされる作品がローマのバルベリーニ宮殿に残っています。上半身ヌードで手を左胸に当てている姿は愛の女神ヴィーナスを表したもの。彼の死の1年前に描かれた作品です。ラファエロは死の間際に彼女にすべての財産を残したと伝えられています。
古代からの学者を集めた「アテネの学堂」
彼独自の甘いタッチで描いた女性像を見てきましたが、最後は題材の異なるものを紹介したいと思います。フレスコ画の「アテネの学堂」はヴァチカン教皇庁に描かれた大作。ラファエロはここに古代ギリシャの偉人たちをその時代に生きた天才たちの肖像で描きました。真ん中にいる白いひげの老人はダ・ヴィンチの肖像で描いたプラトン。そして一番手前に肘をついて座るのはミケランジェロの姿をした古代ギリシャ哲学者ヘラクレイトスです。それらの天才に混じってラファエロは自分の姿も描き入れました。右の柱から2人目が彼の姿です。
近代西洋絵画の基礎となったテクニックを感じてみよう
わずか37歳でこの世を去ったラファエロ。それから約30年後に芸術家の育成を目的とするアカデミーが設立されます。ここで芸術家たちはラファエロのスタイルを学びました。後世まで大きな影響を与え続けたラファエロの最高の技術をぜひ感じてください。
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この記事のライター
イタリア政府公認観光ガイド。本場イタリアからグルメ、ワイン、そしてイタリア男のカッコイイ生き様をお届けします。大手外資系企業で勤務中のある日「トスカーナの風に吹かれたい!」と思いつき、キャリアを捨ててイタリアに移住。フィレンツェ公認観光ガイドとして、大好きなルネサンス発祥の地フィレンツェで、現代にも通じる芸術、歴史、ライフスタイルを紹介しています。Twitterでほぼ毎日イタリアの「生」の情報を提供中。