映画インフェルノにも登場するダンテの「神曲」を読んでみよう
「ダヴィンチコード」で有名になったダン・ブラウン原作の映画「インフェルノ」は、イタリアの詩人ダンテの「神曲」がベースになっています。ヨーロッパ文学の基礎と言われるこの作品を紹介します。
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ダンテの「神曲」って?約700年前に書かれた長編詩
美術史や宗教史をふんだんに使ったミステリー作家として知られるダン・ブラウンが挑んだのは、14世紀に書かれたダンテの「神曲」。映画にもなった「インフェルノ」とは「神曲」に登場する「地獄編」のイタリア語訳です。ルネサンスの先駆けと考えられている「神曲」が執筆されたのは1300年代の初め。日本では鎌倉時代の終わり頃です。イタリアだけでなくヨーロッパ全土に大きな文化的影響を及ぼしたと言われる作品を見ていきましょう。
亡命生活の中で執筆された「神曲」
ダンテが生まれたのは1265年。ヨーロッパではこの頃、ローマ教皇と神聖ローマ帝国皇帝の間で熾烈な権力闘争が行われていました。とくにイタリアでは闘争が激しく、市民代表としてローマ教皇に嘆願に行っている最中にダンテは祖国であるフィレンツェから国外追放を言い渡されてしまいます。帰るべき祖国を失ったダンテはその後イタリアの各地を放浪し、祖国に帰ることなくラヴェンナの地で没します。「神曲」はその亡命生活の中で執筆された作品です。
宗教観と政治批判とがおり混ざる「地獄編」
「神曲」の舞台は1300年。ダンテが森に迷い込み、いつの間にか地獄、煉獄、天国の全てを一晩でつぶさに経験するというストーリーです。その中でも一番有名なのが「地獄編」。その後の文学や美術に大きく影響を及ぼしています。地獄がどんなところかがリアルに描かれることはもちろん、地獄で処罰を受ける人々の中にはダンテが生きた時代の人たちも含まれます。ライバルの策略によって亡命生活を余儀なくされたダンテの痛切な叫びだったのかもしれません。しかし、当時の人物が描かれることによって、現代の私たちにとっては歴史書としての役割も果たしてくれているのです。
全てを超えた理想の女性 ベアトリーチェ
ダンテを語る上で欠かせないのがヒロインのベアトリーチェです。地獄から天国までの旅でダンテを導いてくれるのが天国に住むベアトリーチェ。ダンテが9歳の時に街で信じられないほど美しい少女に出会います。それがベアトリーチェでした。身分が重要な当時、良家のお嬢様であるベアトリーチェにダンテは片思いをするだけ。彼女は別の男性と結婚し、23歳の若さで亡くなってしまいます。ダンテは若くして亡くなった彼女を至高の女性にし、天国編で登場させるのです。神曲で描かれたベアトリーチェの姿は以降の美術作品に大きな影響を与えました。
ダンテの「神曲」が美術に及ぼした影響 西洋における地獄極楽図絵
ダンテの「神曲」はその後の美術作品に多大なる影響を及ぼしました。西洋美術に必ずといっていいほど出てくる地獄極楽図絵。特に地獄の部分は、ダンテの「神曲」に描かれている地獄の様子を画家たちがイマジネーションを駆使して描いています。そして映画「インフェルノ」の鍵にもなっているのが、ルネサンスを代表する画家ボッティチェリによる地獄図です。ダンテ誕生から200年経って描かれたものですが、「神曲」の世界がありありと表現されています。そして19世紀には、イギリスのラファエル前派と呼ばれる若い画家たちがこぞってダンテの世界を描きました。
ダンテから現代の私たちへのメッセージ
ダンテが約700年もの間、ヨーロッパの文化や美術に影響を及ぼしてきたことはわかりました。しかしそんな昔の本が現代の私たちに理解できるのでしょうか?「神曲」を実際に開くとよくわかるのですが、そこに描かれているのは生々しい人間の姿です。許されない恋に身を焦がす男女や、地獄に落ちてもまだ自分の欲を捨てられない政治家など、時代は変われど現代でも十分にありそうな話がたくさん並んでいるのです。それが700年という長い間読み続けられてきた理由かもしれません。そんなことを踏まえて「インフェルノ」を読んでみるとより面白くなるでしょう。
エンターテインメントの根底にある古典を楽しもう!
古典というと難しく感じて敬遠してしまいがちですが、エンターテインメントにも多く応用されています。どんなに時がたっても人間というものはそれほど変わらないのかもしれません。ぜひダンテの「神曲」を手元において、ヨーロッパの美術や現代の映画を見るのに役立ててください。
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この記事のライター
イタリア政府公認観光ガイド。本場イタリアからグルメ、ワイン、そしてイタリア男のカッコイイ生き様をお届けします。大手外資系企業で勤務中のある日「トスカーナの風に吹かれたい!」と思いつき、キャリアを捨ててイタリアに移住。フィレンツェ公認観光ガイドとして、大好きなルネサンス発祥の地フィレンツェで、現代にも通じる芸術、歴史、ライフスタイルを紹介しています。Twitterでほぼ毎日イタリアの「生」の情報を提供中。