イギリスのボーエンの美しいピアノ曲!知られざる名音楽家
イギリスのボーエンは後期ロマン派の作曲家です。マイナーな作曲家という印象ですが、実はラフマニノフと並ぶほどのピアニストであり、とても美しいピアノ曲をたくさん書いています。現代になり改めて見直されつつある素晴らしい名曲をお聴きください。
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ヨーク・ボーエンという音楽家
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ヨーク・ボーエンは1884年にイギリスに生まれました。ラフマニノフ同様のピアノのヴィルトオーソ(名人)で、作品は後期ロマン派の美しいメロディが特徴です。この1800年代終わり頃からヨーロッパやロシアは芸術がもっとも栄えた時期であり、数え切れないほどの芸術家が活躍しました。個性的で魅力溢れる作曲家がこの時期に一気に音楽界に溢れ、「しのぎを削る」ような戦いがあったのではないでしょうか。生半可な「個性」では、世の中で音楽家として成功することは難しかったであろうと推測できます。
ボーエンも、母校である王立音楽アカデミーの教授となり作曲活動をしますが、音楽家として華々しく成功したとはいえませんでした。ほとんどその音楽は巨匠たちの名前の影に隠れ、いつしか忘れられ「マイナーな作曲家」としてわずかに存在していたようです。作品は、技巧的で多少他の作曲家、特にロシアのラフマニノフやスクリャービン、メトネルなどの作風を取り入れているような雰囲気もあります。イギリス的な雰囲気は感じられず、リズムや旋律はむしろロシア的であるかもしれません。そういう意味では個性に欠ける部分があることは否めませんが、そのメロディは例えようもなく美しく、魂に真に迫ってくるように魅力的です。
このような素晴らしい作曲家の知名度がまだ低いことが残念でなりません。近年になり、作品の価値が見直され演奏するピアニストも出てきており、楽譜もいくらか手に入るようになってきています。ピアノ小品の作品が特に美しい旋律を聴くことができますので、その一部の5曲をお聴きください。
24の前奏曲
「24の前奏曲」という曲集を書いた最初の作曲家はショパンです。元々ショパンは、バッハの「平均律」という一曲ずつすべて調性が異なる曲で構成された曲集を基本にして作ったのですが、後々このスタイルは作曲家に人気となりいろいろな人たちが「24の前奏曲」として作曲しています。一曲ずつが短く、バラバラに弾くのではなくすべてを通して演奏することを想定して作曲されていることがほとんどですが、現代では単独で扱われることの方が多いようです。ボーエンによるこの曲集は、やはり技巧的な難曲が多いのですがボーエンらしさを十分に堪能できると思います。
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3つの厳粛な踊り 作品51
題名は少し固い感じがしますが、曲は三曲とも短いながら情緒豊かでよくまとまっています。ゆっくりと優雅な慎ましい雰囲気の踊りが聴こえてくるような一番、しっとりとして幾分悲しいメロディが涙を誘うようなたいへん美しい二番と、重々しいワルツが印象的な三番で構成されています。ボーエンの良さがしっかり出ているお勧めの曲集です。
ピアノソナタ 第5番 作品73
ピアノソナタというものは、古典派が好んで用いた形式のことです。作曲家が自分の作品に重みを持たせるために「ソナタ集」という括りで書きたいものであると思います。内容は、長いということもありますが、作曲家にとっても自分の技量を示す重要な作品といえます。また、ピアニストにとっても、作曲家の「ソナタ全集」として演奏することに意義や達成感を感じられ、やはり自分の技量を示す重要なものだということです。いろいろな作曲家が書いているソナタですが、ソナタ形式は「主題提示、展開部、主題再現部」からなります。ソナタ一曲の中は、ほぼ3楽章から4楽章で構成されており、第1楽章と第3楽章がソナタ形式をとりますが、楽章がなく通して最後まで演奏するものや変奏曲形式になっていたり、作曲家により自由に作られていることもあります。ボーエンは、死の年に書いた第6番が最後のものです。ソナタの中で演奏される機会の多い5番をお聴きください。壮大な物語を読むことに匹敵するダイナミックな内容となっています。
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3つの無言歌 作品94
「言葉のない歌」すなわち「無言歌」ですが、ピアノ曲としてはメンデルスゾーンのものが有名です。一曲ずつは短いもので、味わい深く「歌う」ような叙情的なメロディが頭に残ります。ボーエンの作品は、この「3つの無言歌」のみですが、「小川の歌、孤独、前兆(きざし)」という題名がそれぞれついています。3曲目は「ラフマニノフの鐘」を連想させるような、激情感にあふれ叩きつけるような和音の連打が悲壮な雰囲気の曲で、この曲集の一番の聴きどころでしょう。
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夢 作品86
ボーエンの作品は、演奏が難しいものが多いのですがこの「夢」のように優しい流れるような作品もあります。夢の中で見る美しい景色は、真昼のキラキラした光ではなく夕暮れのように、太陽が沈み空の色が濃く美しい青と赤になる瞬間である気がします。5分ほどの短い曲ですが、この曲もボーエンの良さがしっかりと凝縮された名曲です。
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知られざる作曲家の汚名返上
いかがでしたでしょうか。ヨーク・ボーエンは、当時の音楽界の流行の作曲家ではありませんでした。時代は新しい個性的な音楽を求めていたため、美しく叙情豊かなメロディには冷たい態度で接したようです。ボーエンは、1961年に亡くなっていますがその後も「知られざる作曲家」として埋もれ、忘れ去られようとしていました。しかし現代になり、その悲しみを秘めたような美しさに虜になるピアニストも増えているのです。ボーエンは素晴らしい作曲家ですから、ぜひマイナーなイメージがなくなりもっと作品をいろいろな人に知っていただければと思います。
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この記事のライター
検査技師をしておりました。現在は家庭に入り、ライター、アンティークドールのディーラー、人形関連の制作と売買、ピアノ講師などをしています。趣味の薔薇や犬、鳥の世話と夫と子供の世話に忙しい毎日です。