しょうゆ瓶の生みの親、栄久庵憲司が遺したモノ
今月8日に亡くなった、工業デザイナーとして日本が世界に誇る、栄久庵憲司(えくあんけんじ)。私たちの生活を支える彼のデザインを振り返りたいと思います。
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僧侶からデザイナーへ
僧侶の家に生まれた栄久庵は、一旦は仏門に入ります。しかし、原爆投下後の広島にて経験した、父と妹の死、そしてなにもかもが足りない状態。この時の経験が彼をデザインの道へと突き動かします。
原爆後の広島で目にした「凄惨な無」を「有」で消していきたいと思った。それがインダストリアルデザインに生きることを決めた瞬間です。
その後、東京芸術大学に進み、卒業した後に「GKインダストリアルデザイン研究所」を設立し、本格的にデザインの世界に身を投じます。
その後活躍は言うまでもありません。
キッコーマンのしょうゆ卓上瓶のデザインを皮切りに、様々なデザインに携わります。73年にアジア初の国際インダストリアルデザイン団体協議会会長に就任。そして14年にはデザイン界のノーベル賞ともいわれるコンパッソ・ドーロ国際功労賞(ゴールデンコンパス)を、アメリカのアップル社やイタリアのジョルジョ・アルマーニと並んで受賞するという栄誉を受けています。
機能性、優美さ、宗教的世界観の融合
彼のデザインの魅力。それは、機能性と優美さに加えて、宗教的世界観が作品に込められていることにあると思います。宗教にある考え方はデザインにも通じるとし、自らが学んだ仏教的概念をどんどん作品に活かしていくんです。
彼のインスタレーション作品(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)には”池中蓮華(阿弥陀経に出てくる、極楽浄土の池に咲く蓮の花)”など仏教世界の存在が登場します。
ある意味での、「自利利他」(悟りを開くために修行すること、他人の救済のために尽くすことの2つを共に行うこと)の思想がインダストリアルデザインにはあった。
日常を豊かにするデザインの数々
キッコーマン、しょうゆ卓上瓶
醤油といえばまずこのビジュアルが思い浮かびます。61年に製品化されたこの商品。その優美なデザインに加えて液だれしない機能性も相まって、ロングセラーとなります。世界的に支持を得ており、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵されています。
JR、成田エクスプレス
他にも秋田新幹線「こまち」やJR東日本の多くの車両のデザインを手がけました。もちろん、山手線も彼のデザインです。
ヤマハ、YA-1
ヤマハのバイクも、多くが彼のデザインです。
ほかにも、新宿副都心の交差点上に設えられた巨大なサインリングや東京都のシンボルマーク、ミニストップのロゴマークなど、身の周りのいたるところに彼のデザインがあります。
人もモノも同じだ
彼が海外でのインタビューで答えたセリフを最後に紹介します。
“Just like a man is born, and becomes old, ill and dies…even in a factory things are born, they have very useful years, and then finally die. It’s all the same.”
"人が生まれ、老い、死ぬように、工場ではモノが生まれ、人の役に立ち、そして最後には死ぬ。すべて同じことだ。"
ご冥福をお祈りします。
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この記事のライター
新しい物好きなうざかわ系アラサー男子。男子校で男に囲まれてきた反動から、大学以降は女性にモテることのみを考えてます。でも基本シャイなんでうまくアプローチできません。外資系メーカー→MBA→国内インフラ企業と経験。英語も話せる真面目な人間。