【連載小説】死の灰被り姫 第12話

料理バトル「魚料理」

kaneshiro金城孝祐
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【連載小説】死の灰被り姫 第1話

【連載小説】死の灰被り姫 第1話

金城孝祐金城孝祐

 「では、次の料理を!」大臣が言った。「『魚料理』! 両者、はじめ!」

 ・王女 ヤマメのムニエル レモン添え

 ・王様 アサリとシャコのテリーヌ

 王女は、王様の料理を危機的な眼差しで見つめていた。アサリとシャコのテリーヌ……これで、昼に私が見た、彼女の持っている食材を、彼女は使い切った……あとは、私の未知の食材を使っている……
 それはいったいなんなのか!? アサリとシャコだけでは、テリーヌにはならない! 自給勝負ではゼラチンが使えないから、型にはめて、煮こごり状に固めるには、コラーゲンを沢山含む材料を使うしかないんだ! アサリとシャコでは無理なんだ! いったい、他に何が入っている!? というかだいたい、下層階級出身の私が、どうしてテリーヌについての知識を持っているのだ!? どうしてこうなった!?

 「さて……」王子がヤマメのムニエルにナイフを入れ、フォークで刺して口に運んだ。「おおっ、レモンが効いている。皮もサクサクしているし、身もホクホクだ。まさに釣りたての魚という感じかな。濃厚なスープの後にこういう魚料理は嬉しいね」
 ここまでは計算通りだ……一点勝って、だめ押しの二点めを入れる! そのつもりだった、だが、それが簡単に通じる相手ではないことは、もう分かってる! このヤマメ料理では、攻撃力が足りない! あの正体不明のテリーヌに、はたして太刀打ちできるのか? あと一敗で、私は終わりだ! うかつだった!
 「こっちのテリーヌはどうかな……」王子はテリーヌの一角をフォークで崩して掬い、口に運んだ。それからしばらく黙って、咀嚼した。
 「うん……うん、まあ……」王子はくちごもった。「貝やシャコは味がしみてて、噛むほどによく味わいが深く出てきて、いいと思うんだよ。口当たりも悪くない。でもねえ……」

 王子の曇った顔に、王女は心臓が高鳴った。あいつ、失敗しやがった! まさかの!
 ざまあみやがれ! 妙に凝った料理作ったせいで、うまくいかなかったんだ!
 「なにかご不満でも?」王様はしれっとしている。
 「うーん……どうも、ゼラチンがね、無味なうえにぐにぐにして、邪魔な存在でしかないんだよ。これなら単純に、貝とシャコの炒め物のほうがなんぼかましかなあ」
 「それでは……」しかしなお、彼女は余裕の表情だった。「これならどうでしょう?」
 王様はガスバーナーとグラニュー糖を取り出し、テリーヌにグラニュー糖をたっぷりとまぶして、バーナーに火をつけてあぶりだした。

 「これは、カラメリゼ!」大臣は言った。「グラニュー糖をバーナーで炙る事で溶かし、同時にテリーヌにも軽く火を通す技法! 甘みとともに香ばしさを加え、さらに見た目も飴色に輝き美しくなる! 焦げ目も食欲をそそる! こればかりは、普段から高等な料理に触れ、慣れ親しんだ者にしかできない発想!」
 「ぐ……!」王女は苦虫を噛み潰すようにそれを眺める事しか出来なかった。
 「それでは、いま一度ご賞味いただけますでしょうか?」王様は言った。
 「う、うむ……」王様は完成形となったテリーヌを口に運び、もぐもぐと噛んだ。
 「おっぱああああああアァアアアアアアアアアアァァアァァーーーーーー!!」王子は絶叫した。「こっ! これはどういう事だぁァーーーーーーーーー!!」
 「うふふ……ご満足いただけたでしょうか?」王様は不敵に笑った。
 「ああ! 素晴らしい! うまい! うますぎるぞおおおおおおおお!!」王様は犬のようにテリーヌにがっつき、瞬く間に平らげてしまった。
 「王様……よろしければ、種明かしを」大臣が言った。「砂糖だけの力ではありますまい……」
 「フフ……見ての通り、『温度』です」王様は言った。
 「ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!」
 「私の作ったテリーヌはすべて動物性タンパク質でできている! タンパク質は42度でまず変性し、60度前後で固まり始める! だけれど味は、それ以上に敏感に変動する! 温度が五度変わっただけで、別の食べ物になるのよ!」
 「ああ、そうだ……テリーヌはほんのりと暖まった程度だった」王子は言った。「だが、そのほんのちょっとした温度の差が、ゼラチンの味を大きく変えた! 無味無臭だったゼラチンの香りが一気に開き、どっしりとした旨味ととコクに変貌した! それはアサリとシャコを固めていたつなぎ材から、お互いを引き立てあう調味料へと変わったのだ!」

 どっしり……? コク……?
 王女はテーブルにかけより、指で皿に残っていたテリーヌの断片を掬って舐めた。
 「王女! 無礼ですぞ」大臣が叱った。
 「ごめんなさい。でも、今味を見て確信したわ。王様、やはりあなた、このゼラチンを何かの肉から取っているわね!」
 ギャラリー「に……肉から取っただって!?(ざわざわ)」
 ギャラリー「そんな……反則じゃねーか!(ざわざわ)」
 ギャラリー「あの魚介類とゼラチンの比率じゃ、添え物レベルじゃ済まないぜ!(ざわーるど)」
 ギャラリー「反則だ!(わざわざ)」
 「だまらんかい!」大臣が一括した。「判定は王子に一任されているのだ! 下賎の者がざわざわするな! 帰れ! 文句がある奴は帰れ! 帰れ帰れ!」

 「いえ、いいのよ」王様は言った。「この勝負、反則負けを認めるわ」
 「えっ……」大臣は青々となった。「ど……どうして?」
 「むしろ、肉の使用に誰も気づかなかったらどうしようと思ってたのよ。あれは、動物の皮を煮込んで取ったコラーゲン。そういうこと。……そして、本当の勝負は次の『肉料理』よ。この最後の勝負で、王女、あなたを完膚無きままに叩き殺し、今度は四肢をばらばらにして捨ててあげるから!」
 動物の皮……王女は真っ青になった。さっきの牛テールスープといい、やはりこいつ……
 となれば、次の「肉料理」も……
 まずい……

【連載小説】死の灰被り姫 第13話

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小説家。「ネオ癒し派宣言 劇団無敵」主宰。油絵も描いてる。

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